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『村正の噂』第一話 村正に斬られた男

  • 執筆者の写真: Emi  | Kenshiro Shiba Labo
    Emi | Kenshiro Shiba Labo
  • 3 時間前
  • 読了時間: 3分



『村正』


YouTubeコミュニティで連載中の物語。


流れていく断章とは別に、


原文をここに記録しておきます。




春雨の夜、橋の上に立つ侍と月光に濡れる日本刀を描いた、和紙風の幻想的なイラスト。
春の雨。噂だけが、橋を渡っていった。


私はもう

この世の人ではない。


それに気づいたのは

春の雨の夜だった。



ひらり。



桜の花びらが

落ちた。



町外れの橋。

私は

男と向き合っていた。


男は

刀を持っていた。



黒い鞘。

古びた柄。



ただ

それだけの刀だった。



だが

その刃は

あの刀だと言われていた。



桑名の刀。



噂では

妖刀らしい。



その話を聞いたとき

私は笑った。


そんなもの

ただの噂だ。





男は

何も言わなかった。


ただ

ゆっくりと刀を抜いた。



刃が現れた。



月の光を受け

静かに光る。


そのとき

私は思った。



ああ。

あれが



村正か。




刃文が

静かに揃っている。

箱のような刃文。


表と裏が

ぴたりと揃っていた。



静かな刃だった。


だが

刃文の奥で

細かな光がざらりと動く。


月の光を受け

沸が

銀の粒のように

瞬いた。



波に漂うような

刃。



それなのに

その奥に

獣のような気配があった。


妙に

怖かった。




私は

刀を構えた。

橋の下では

川が流れている。


春の雨で

水音が大きい。


男は

一歩だけ近づいた。



そして

刃が動いた。



速かった。



あまりにも速くて

私はそれを

ほとんど見ていない。



ただ

冷たい風のようなものが

胸を通り抜けた。


それだけだった。





私は

橋の上に立っていた。


男も

同じ場所に立っている。


何も

変わっていない。



だが

妙なことに気づいた。



私の足元に

誰かが倒れている。




それは

私だった。



死ぬとは

こういうことか。




痛みはなかった。



ただ

少しだけ

寒かった。





男は

静かに刀を拭いた。


布で

丁寧に。


まるで

大切な道具を

扱うように。



男の顔は

雨よりも静かだった。


こうして

あの刀は

鞘に戻った。





カチ。





小さな音。


それで

すべてが終わった。



刀は

ただ

そこにあった。


斬れただけだった。




男が去ったあと

橋の上には

雨だけが残った。


生暖かい風。


私は

しばらくそこにいた。



自分の体の

そばで。




ひらり。



桜の花が

また落ちた。


やがて

夜が明ける。


空が

少しずつ明るくなる。




刃は

美しかった。



だが

その奥に

影があった。


それでも、

美しかった。




人は言う。



妖刀。


村正。



そう呼ぶほうが

都合がいい。



噂だけが

江戸を歩き始めた。






雨が止むころ

私は

もう橋の上にはいなかった。






ひらり。





桜が

落ちた。





『Muramasa Silent World』

この物語と同じ空気の中で制作している、


映像断章。

静かな時間に、どうぞ。

(ナレーション・テロップのない環境音だけの動画です。お話に世界観をお楽しみください。)









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