花を探していたら、霜があった

1 日前
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――近松門左衛門の『曽根崎心中』から
近松門左衛門の作品には、花が似合う気がする。
恋をして、
追い詰められて、散っていく。
そんな筋書きを思い浮かべたからかもしれない。
けれど、『曽根崎心中』の道行で私が立ち止まったのは、花ではなく、霜だった。
此の世の名残、夜も名残、死にに行く身をたとふれば、あだしが原の道の霜、一足づつに消えて行く、夢の夢こそあはれなれ
二人にとっては、いつもの道も、これが最後になる。
夜の道に降りた霜は、歩くそばから消えていく。
霜なんて、普段なら気に留めずに踏んでしまう。
でも、もう戻らないと決めた人の目には、道にあるものが一つずつ見えていたのだろうか。

近松が描いたのは、遠い昔の恋人たちだ。
なのに、霜の冷たさを思うと、二人が歩いていた夜が急に近くなる。
心中を、美しい言葉だけで包んでしまうのは、少し怖い。
二人がそこまで追い詰められたことも、忘れたくない。
花のように散った、と言うのは簡単だ。
でも近松の文章には、散る前の二人が、暗い道を歩く時間がある。
花を探すつもりで読み始めたけれど、まずは足元の霜が気になっている。



