top of page

花を探していたら、霜があった

執筆者の写真: Emi  | Kenshiro Shiba Labo
Emi | Kenshiro Shiba Labo
1 日前
読了時間: 1分

――近松門左衛門の『曽根崎心中』から




近松門左衛門の作品には、花が似合う気がする。


恋をして、

追い詰められて、散っていく。


そんな筋書きを思い浮かべたからかもしれない。


けれど、『曽根崎心中』の道行で私が立ち止まったのは、花ではなく、霜だった。


此の世の名残、夜も名残、死にに行く身をたとふれば、あだしが原の道の霜、一足づつに消えて行く、夢の夢こそあはれなれ

 二人にとっては、いつもの道も、これが最後になる。


夜の道に降りた霜は、歩くそばから消えていく。


霜なんて、普段なら気に留めずに踏んでしまう。



 でも、もう戻らないと決めた人の目には、道にあるものが一つずつ見えていたのだろうか。



月明かりの下、霜の降りた江戸の町並みを男女二人が歩いていくイラスト。
二人が歩く夜。足元の霜が、月の光を受けていた。


近松が描いたのは、遠い昔の恋人たちだ。


なのに、霜の冷たさを思うと、二人が歩いていた夜が急に近くなる。

心中を、美しい言葉だけで包んでしまうのは、少し怖い。


二人がそこまで追い詰められたことも、忘れたくない。



花のように散った、と言うのは簡単だ。



でも近松の文章には、散る前の二人が、暗い道を歩く時間がある。




花を探すつもりで読み始めたけれど、まずは足元の霜が気になっている。

あそびと文化のレシピ
あそびと文化のレシピロゴ

Texts, images, and videos published on this site are part of the “Muramasa” project and copyrighted by the author.

当サイトに掲載している文章・画像・動画の無断転載・無断使用を禁じます。

bottom of page