
にゃー大陸夢譚 ― 幻想王国と夢渡しの旅
- Emi

- 6月1日
- 読了時間: 2分
更新日:6月3日
夢見の記憶帖 ― にゃー大陸詩抄 1
にゃー大陸という幻の王国を舞台に、夢と記憶を紡ぐ物語のはじまり。
旅の商人コンギツと、夢を継ぐ少年ニャルキオ。
夢の断片としてニャルキオとコンギツが見る、幻の大陸の遺産をめぐる物語。
そっとお届けします。

夢の入口
ことばになる前の
祈りがひとつ
闇のなかで
ぽつりと光る
――それが夢のはじまり
第一帖:門のかたち
開けるための扉じゃない
閉じるための壁でもない
これは祈り
これは記憶

廃墟に立つ、ひとつの石の枠。
門のようだけど、どこにも通じていない。
それは誰かの「願い」のように、
形だけを残して、
静かにそこにあった。
「ここには、記憶が封じられているのさ」
旅商人コンギツがぽつりとつぶやいた。
「これを扉だと思うかい? それとも門だと思うかい?どっちでもいいけど、開けるなよ。ここにはまだ、誰かの、心が残っているんだからね」
ニャルキオは手をかざす。
門の向こうに何も見えなかったけれど、
風のような気配だけが、指の先に触れた。
〔注記〕
「門のかたち」は、かつてにゃー大陸に存在した「祈門(きもん)」と呼ばれる石碑をモチーフにした記憶片です。
その門は、通るためのものではなく、
“過去を封じ、未来へ願う”ためのかたちでした。
メキシコのイスタクシワトル
元ネタは、メキシコのイスタクシワトルの麓にある洞窟の中に設置された、信仰対象(石のレリーフ)と簡素な祭壇。
メキシコには、ふたつの恋人の山が並び立っています。
イスタクシワトルとポポカテペトル。
「眠れる女神」と「炎の戦士」とも呼ばれるふたりは、アステカの伝説の中で結ばれることのなかった悲恋の象徴。
その麓には、古の人々が今も大切にする祈りの場、洞窟があります。
メキシコの先住民文化では、洞窟は、地中深くへと続く闇の中に、命を育む母なる大地の胎内と信じられてきました。
土の匂い、ひんやりとした空気。
そこは、静寂の中に人々の声なき祈りが積み重なる神聖な場所。
雨を呼ぶため、豊穣を願うために、花や香、トウモロコシの供物をそっと捧げます。
十字架やロウソクもまた、カトリックの光を借りながら、先住民の女神・トナンツィンへの祈りと重なります。
母なる大地へ、
静かに、
そして確かに届ける祈り。
メキシコのイスタクシワトルの麓にある洞窟は、かつての神話が息づく場所なのです。




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