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にゃー大陸2帖:空の書きかけ

  • 執筆者の写真: Emi
    Emi
  • 6月3日
  • 読了時間: 2分
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にゃー大陸という幻の王国を舞台に、夢と記憶を紡ぐ物語のはじまり。

旅の商人コンギツと、夢を継ぐ少年ニャルキオ。

夢見の詩と物語を、そっとお届けします。




空に

絵を描いたみたい。

筆の跡?

いや、

誰かの落書き?

雲って、

ほんとうに

不思議。


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ニャルキオは夢のなかで空を仰いだ。

「空になにか書いてある…落書き?」

雲に描かれた筆跡が、知らない文字に見えた。

「にゃー坊には そう見えるか。これは記憶さ」

傍らで旅商人コンギツが答えた。

「これが…空の記憶?」

ニャルキオの問いに、コンギツがにやりと笑った。

「だれかが、忘れた神さまの名前を描いたのかもしれんね」

ニャルキオはうなずき、

空にひかれた線をなぞるように指をのばした。

雲は消えていく。

けれど、なにかが胸の奥に、

確かに残っていた。



〔注記〕


この夢は、“空書き(そらがき)”と呼ばれる記憶片に基づくものです。

にゃー大陸の空には、神々が筆のように雲を走らせ、

言葉にできないものを空へと描き遺したといわれています。





元ネタは、エジプトのルクソールの空と雲の一枚の写真です。



神々が雲を筆にして空へ描き遺した文字…


その文字は、どこか古代の象形に似ているが、決して誰も知らぬ筆跡。

まるで音のない詩のように、光と影を編む、雲のしずくでできている。


曲線は水面のさざなみのように柔らかく、直線は稲妻のように鋭く、けれど一瞬で消える。

神々が描いたのは、記憶の輪郭だけだったのかもしれない。


ある文字は、春の芽吹きのようにふくらみ、ある文字は、冬の星屑のように冷たく冴える。


神々の筆跡は、風にさらわれていくたびに、新しい物語を連れてくる。

読む者にだけ、瞬間ごとの意味を与えて、言葉ではなく、呼吸のような気配として届く――


そんな、無限の余白を持った文字だったのだと思います。



あなたが見上げるその空には、きっと今日も、誰かの祈りの一筆が漂っているのでしょうか。


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